ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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(オウム返しの予期せぬ展開!『別人』がテーマの作品例)新作ショートショート(30)/オウム返し

新作ショートショート/テーマ(別人)

 

 

オウム返し

 

 

「休日に電話してきちゃダメだよ。妻に聞かれたらどうするんだい?」
 マサトは『ギョ』っとして、飼っているオウムの方を見た。今喋ったのは、間違いなくオウムの『ピーちゃん』だ。
 そしてマサトは咄嗟に妻である『リエ』の方を見る。リエはマサトに背を向けた状態で、スマートフォンで再生している動画に夢中だ。お気に入りの『料理研究家』の動画チャンネルを登録していて、時々こうやってレシピ動画を再生しながら料理をする事がある。映像ではまかなえない部分もあって、いつもより音量を上げているので、こちらの声や音はまるで聞こえない様だった。
 幸いな事に、リエはピーちゃんが喋った事に気付いていない。マサトが次にやるべき事は、直ぐにこの部屋からピーちゃんを連れ出す事だった。
 マサトは考える。この部屋からの脱出手段。それは『耳かき』だ。最初はマサトが机の上に置き忘れたのを触っていた事がきっかけだが、いまではすっかりピーちゃんの遊び道具になっている。
 マサトは自分の部屋にある耳かきをピーちゃんに与えるフリをして、ダイニングを出る事にした。
「なんだ、また『アレ』で遊びたいのかい? 仕方がないなあ。リエ、ちょっと俺の部屋にピーちゃんを連れて行くよ」
 リエはマサトの方を見ないまま、軽く右手をあげて、何かを追い払う様な手振りをした。『料理に集中しているから、さっさと向こうに行って』と言う意味だ。普段なら少し気分を害するところだが、今日は逆に有り難かった。
 鳥籠ごとピーちゃんとリビングを出たマサトは、直ぐに自室で隠蔽工作に取り掛かる事にした。
 ピーちゃんは何故か言葉を十個までしか覚えられない。これまで何度も繰り返したが、新しい言葉を覚えると、古い言葉から順に忘れてゆく。これが記憶の限界なのか、或いは飽きて話さなくなるのかは定かではないが、それがピーちゃんの習慣だった。
 ピーちゃん、いいかい?
「ワ・ー・ル・ド・カ・ッ・プ」
 マサトがピーちゃんに聞き取り易い様、ゆっくり話す。
「わーるどかっぷ?」
 ピーちゃんはその言葉を『オウム返し』した後、首を傾げる。まるで『これでいいの?』と確認でもするかの様に。この動作をした時、ピーちゃんはしっかりと、その言葉を覚えていると言うのが、いつものパターンだった。
「わーるどかっぷ……。わーるどかっぷ……」
 語源の如く、ピーちゃんはマサトの教えた言葉を『オウム返し』する。それを繰り返す姿は、まるで新しい言葉を覚えたのが楽しくて仕方がないかの様、マサトには見えた。
 その後もマサトは、ピーちゃんに新しい言葉を次々と覚えさせる。
 ピーちゃんが覚えた言葉が『十個』に達した時、マサトの思惑通り『問題のセリフ』をピーちゃんはすっかりと忘れていた。心配性なマサトは、ピーちゃんが喋るのを何度も繰り返し聞いてみたが、マサトが今日覚えさせた『新たな十個』の言葉を繰り返すだけで、他の言葉は一切喋らなかった。
ー上手くいったー
 マサトは心の中で何度もこの言葉を『オウム返し』した。
 安心したのも束の間、なかなかリビングに戻らない事を不審に思ったのか、リエが部屋のドアをノックしてきた。
「ねえ、何してるの? もう料理は出来たのよ。冷めたら美味しくないから、直ぐにピーちゃんと来て!」
 マサトは急いでピーちゃんの入った鳥籠に手をかけた。リエは自分が作った料理に関して、その食べ方などにうるさい。こっちが先だの、このソース以外は絶対につけないで、などと。特にお気に入りの『料理研究家のレシピ』については、『食べ方』は勿論の事、『出来たて』を逃そうものなら、その『説教時間』は三十分は下らないのだ。後々の面倒な事を考えた時、何を置いてもダイニングに向かうのが得策であった。
 部屋のドアを開けようとした時、再びマサトのスマートフォンが鳴った。電話の主は浮気相手で、こちらも直ぐに対応しないと、もっと面倒だ。
 電話に出ると、まくし立てる様な勢いで相手の声が耳に飛び込んで来た。マサトは仕方なく、それに応える。
「だから妻とは別れって言ってるじゃないか!」
 マサトの声を聞いて首を傾げるピーちゃん。そして開くドア。
 次の瞬間、マサトの目の前には妻の姿があった。
 そこにピーちゃんの『オウム返し』
『だから妻とは別れるって言ってるじゃないか!』

 

 

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