R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

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時空モノガタリ未発表作品(4)/白い壁

(番外編)未発表作品/白い壁

 

小学生の頃、担任教師から聞いた「怪談」は、長い間、私を苦しめ続けた。夏の夜の、ちょっと怖い話。

 

白い壁

 

 私が子供の頃、家は貧しく一家四人が小さなアパートで暮らしていた。風呂は無く、狭い台所と二つの部屋があるだけだった。

 トイレは一番奥にあった。そこにたどり着く為には細長い廊下を通らなければいけない。廊下は三メートル弱しかなかった筈だが、子供の頃の私にとって、それはとても長い距離に思えた。

 トイレに行くのが怖かった。昼間はよかったが、夜は問題があった。

 トイレに向かって廊下を真っ直ぐ進んだ時、左には大きなガラス戸があって、その外は小さなベランダだった。カーテンは無く昼間は外が見えるが、夜になるとガラスがまるで鏡のように、自分の姿をうっすらと映しだす。

 外の景色と、反射した自分の姿が混じり合い、それがとても不気味だと思った。

 反対側は壁だった。異常なほどに白く厚みのある壁だ。ここのアパートが古かった為、「本来は外だった部分にトイレを増設したから、壁の部分が厚くなったんだろうな」と、建築関係の仕事をしている父親は言った。

 トイレに行く時に恐怖から逃れる方法はたった一つで、白い壁をずっと見ながら行く事だった。私はこの壁だけを頼りにしていた。

「みんなは『人柱』って知ってるかな……」

 小学校の担任だった男性教師は空気の読めないタイプで、嫌いだと言う生徒は多かった。

 国語が得意科目だった教師は、良くも悪くも言葉を操るのに長けていたようで、夏のある日に授業が進んでいたからと、突然始めた『怪談』は、そのリアルな語りで、半数の女子生徒を泣かせる事態となった。

 私は『白い壁』が怖くなった。壁の中から、埋められた女性の声が時々聞こえると言う内容の怪談だった。

 トイレに行く時、唯一頼りにしていた『白い壁』は、その日から恐怖の対象となった。

 私が中学生になる頃、借りていたアパートの取り壊しが決まった。老朽化の為と、私たち家族は立退きを強いられた。

 予想よりも高額だった立退き料に気を良くした父親は、直ぐ新しいアパートを借りる契約を済ませた。

 あれから十五年以上が経ち、私も社会人として少し落ち着きが出てきたが、今でも教師が話した『白い壁』の怪談を思い出す事がある。

「夜になると白い壁からね、若い女の人の声がするんだ。壁を調べてみたら、中から人の骨が出てきてね。手には指輪があったそうだ。きっとその人を殺した相手が贈ったんだろうって」

 私達が立退いた後、アパートは直ぐに取り壊された。しかし問題があった。

 私達が借りていた部屋の壁から、人の骨が発見されたのだ。若い女性で、手には指輪があった。

 その後、担任だった教師が逮捕された。私達が住むより先に、その部屋を借りていたそうだ。同時に二人の女性と付き合っていた。本命ではなかった方の女性が妊娠し、結婚を迫られた。その末の犯行だったそうだ。

 社会人になった私は今でも『白い壁』が好きになれない。

 

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