ショートショート作家 R・ヒラサワの〜Novelist's brain〜

小説の書き方ブログ。ショートショート作家 R・ヒラサワが自身の作品を用いて詳しく解説。新作随時公開中!

(『デキモノ』がテーマの作品例)新作ショートショート(12)/奇病

新作ショートショート(12)/テーマ(デキモノ)

 

 

奇病

 

 

 

 仕事に向かう一時間前、いつもの様に同じメロディがスマホから流れる。マサオはそれを聞きながら、ウトウトと二回目のメロディを待つ。五分後にセットしてあるのは、さっきよりもアップテンポな曲で、これが聞こえたら飛び起きるのがいつもの習慣だった。
 普段はシャワーを浴びてから、軽めの朝食をとるのだが、そのルーティンが乱れたのはシャワーの時だった。
ー後頭部に何かあるー
 少し大きなデキモノの様だが、特に痛みは感じない。とりあえずシャワーを済ませ、鏡でそれを確認する。
「えっ? 口がある!」
 持っていた手鏡を、思わず放り投げてしまった。
 なんと言う事だ。あまりにも衝撃が強すぎたので、しばらく思考回路が停止したままになった。
 そして、自分を落ち着かせ、とりあえず病院の事を考えてみる。そうすると再び、思考が止まる。
「一体、何処の病院に行けば……」
『口』の事だから『口腔外科』が良いのか、場所が『頭』だから『外科』なのか、或いは『整形外科』だろうか……。
 悩んだ挙句、不安でどの病院にも行けなくなった。
 勤務先には、今日は急用で休みたいと伝えた。マサオはとりあえず、いつも通り過ごしてみようと思った。
 仕事に行かない分、かなり時間が余った。先ずはネットで『後ろの口』を調べてみる。当たり前の事だが、そんな症例は無かった。
 その後、思いつくままキーワードを入力して検索したが、マサオを安心させる記事が見つかる筈もなかった。
 直ぐに出来そうな事は無かったので、仕方なく録画していた映画を観る事にした。日曜日に観ようと思っていた『地上波初放送』のものだ。
 映画を観た。しかし、あまり内容が入って来なかった。マサオが時々笑う事があったが、『後ろの口』は無反応だ。
 マサオは少し腹が減った。近所にラーメン店があったが、外食は不安だったので、コンビニで弁当を買った。食事中も普段と何ら変わりがなかった。きっとこれは唇によく似た、ただのデキモノではないかと思う事にした。その後、何も無いまま夜を迎えた。
 次の日は日曜日だった。昨夜は寝付きが悪かったせいか、目が覚めたのは昼前だった。起きて顔を洗い食事をとる。そして歯を磨く。
 電源だけ入れたテレビは、いつも観ないチャンネルになっていて、それを観た時あくびが出て、後でくしゃみもした。
ー何も起こらないー
『後ろの口』は、髪で隠れているから、何もしなければ誰も気付かない。今よりもっと髪が伸びた時、カットをどうするのか考えればいいぐらいだ。
 そしてその日も、結局何も起こらなかった。
 このまま順調にいけば、後ろの口はただの『デキモノ』として、体の一部になる予定だった。
 ところが数日後、『後ろの口』がある事をするのが分かった。マサオが悪い事を言おうとすると、『後ろの口』が勝手に喋り始め、その場を丸く収めてしまうのだ。
 最近、ネットで注文した商品に欠陥があって、電話で少し文句を言ってやろうと意気込んでいたのに、まるでこちらが営業マンであるかの如く、実にソフトなやり取りで終わってしまった。全くスッキリした気分にならなかった。
 交換商品は直ぐに届き、ちょっとしたサービス品まで添えられていた。結果的には良かった訳だ。
 しかしマサオには、大事な問題が残っていた。付き合って一年になる彼女がいる。お互いすっかり冷めている様子だし、最近些細な事からケンカになって、既に二週間ほど連絡をとっていない。
 マサオには、他に気になる女性が居た。いまの彼女とは、もう別れたいと思っている。だから『後ろの口』の存在は、とても厄介だ。
 全て逆の事を言うのならば、対処のしようもあるのだが、悪い事を良い様に言い換えてしまう。
ー別れを告げられないー
 マサオは結局、彼女にずっと連絡をとらず、自然消滅させようと考えた。
 そして電話が、不意に鳴った。『彼女』からだ。出ない訳にはいかない。マサオは覚悟を決めた。『後ろの口』が何を言おうと、自分は別れたい気持ちをぶつけてみようと思ったのだ。
 電話に出て、先ずは『もしもし』とだけ言って、様子をみようと思った。
「君といつまでも一緒にいたい! 君がいないと毎日寂しくて仕方がないんだ」
 いきなり『後ろの口』が喋った。出鼻を挫かれたのだ。防御の隙さえなかった。しかし、マサオは考える。冷めていたのはお互いだったし、ケンカだって最近やったばかりだ。こちらが何と言おうが、彼女だって別れを意識しているに違いない。
 彼女はずっと黙っていた。『何か言ったら?』と、マサオは言おうとした時、再び『後ろの口』が喋り出す。
「君はサイコー、頼む別れないでくれ!」
 マサオは『終わった』と思った。こちらの変なテンションに、呆れてくれる事を願った。
「私の方こそごめんなさい。やっぱりあなたが一番好き! あなたじゃなきゃダメなの」
 意外だった。あんなので良かったのかと、聞き返したかったが、今は何もしない方が無難だ。
 しんとした中、電話の向こうから、彼女のかすかな泣き声が聞こえてきた。さっきの言葉に感動して涙したに違いない。
 結構カワイイ所もあったんだと、マサオも少し胸が熱くなった。
 彼女との別れ話は、少し考え直そうと、マサオは思った。
 電話の向こうでは、マサオには届かない、小さな声が彼女の口から漏れていた。
「うっ、うっ。どうして別れるって言えないのよ、後ろの口は……」

 

 

 

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番外編/オススメ商品

 

 

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昨年は仕事中にエアコンの無い場所だけで使用していたのですが、今年は通勤時にも使用しています。私の主な執筆時間は通勤途中ですので、徒歩での移動時や電車を待っているホームなどではとても活躍しています。

自宅でも部屋から部屋への移動などの場合、その都度エアコンを入れる訳にはいかないので、首から下げたまま使用できて、両手も使えるのでとても便利ですよ。

 


こちらが『充電式ベルトファン』です。

ベルト用のクリップが付いているため、腰にかけて服の中に風を送る事も出来ます。

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今年の夏も暑くなりそうです。皆さんも『熱中症』には十分注意してください。

 

 

 

 

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