今回の作品/奇病(テーマ/デキモノ)
出勤前に主人公がシャワーを浴びていると、後頭部に『デキモノ』がある事に気付く。良く調べてみるとそれは『口』で、しばらく何の問題もなく日常生活を続けられたが、ある時『後頭部の口』は、厄介な事を引き起こす事実に直面するが……。
ショートショート『奇病』の全文はこちら↓↓↓
【CONTENTS】
- テーマからの発想
- 発想からのキーワード選出
- POINT1:タイトル
- POINT2:書き出し
- POINT3:ユーモア
- POINT4:前半のストーリー
- POINT5:展開〜オチ
- 総合的なポイント
- コラム/物語のきっかけ(前編)
テーマからの発想
今回のテーマは『デキモノ』です。『デキモノ』と言えば、昔話では『こぶとりじいさん』の『こぶ』あたりなのですが、人に出来てしまった物が何か良くない事を起こす。シンプルに考えれば、そのあたりでしょうか。
余談ですが『こぶとり』って普通に入力してゆくと、『小太り』って候補が先に出て来て、こういう時ってアイデアが浮かぶチャンスだと、私はよく思います。
発想からのキーワード選出
デキモノ、異物、こぶ、奇病
POINT1:タイトル
タイトルは『奇病』です。今回は、まさに正体不明の病気なのですね。そして、そこから色んな物語が始まる訳ですが、最初の『掴み』として先ずは『なんだろう?』と読者の方に思ってもらうのが大事なんですね。だから今回は特に具体性を持たせない漠然としたタイトルにしているのです。
POINT2:書き出し
仕事に向かう一時間前、いつもの様に同じメロディがスマホから流れる。マサオはそれを聞きながら、ウトウトと二回目のメロディを待つ。五分後にセットしてあるのは、さっきよりもアップテンポな曲で、これが聞こえたら飛び起きるのがいつもの習慣だった。
普段はシャワーを浴びてから、軽めの朝食をとるのだが、そのルーティンが乱れたのはシャワーの時だった。
ー後頭部に何かあるー
少し大きなデキモノの様だが、特に痛みは感じない。とりあえずシャワーを済ませ、鏡でそれを確認する。
今回の物語は、特に現実ではあり得ない設定の為、書き出しを長めにとっています。こうする事で、先ずは読者の方に物語の世界に入ってもらう訳ですね。その先は徐々に展開を早める事でバランスを調整しています。
POINT3:ユーモア
ところが数日後、『後ろの口』がある事をするのが分かった。マサオが悪い事を言おうとすると、『後ろの口』が勝手に喋り始め、その場を丸く収めてしまうのだ。
最近、ネットで注文した商品に欠陥があって、電話で少し文句を言ってやろうと意気込んでいたのに、まるでこちらが営業マンであるかの如く、実にソフトなやり取りで終わってしまった。全くスッキリした気分にならなかった。
交換商品は直ぐに届き、ちょっとしたサービス品まで添えられていた。結果的には良かった訳だ。
通常、普段では考えられない様な事が起こると、それは災いの原因になりがちです。しかし、ここでは何も起こらないどころか、むしろ良い方に転じています。『起句』から『承句』への流れで『何も起こらない』から『いい事が起きる』としていますが、これは勿論『オチ』に向かう為の『ミスリード』なのですね。
POINT4:前半のストーリー
起
主人公が出勤前の朝にシャワーを浴びていると、後頭部に『口』の様な『デキモノ』があるのに気付いた。
承
病院に行くにも何科に行けばいいのか分からず、結局普段通りの生活を続けて様子をみることにした。
POINT5:展開〜オチ
転
ある日、ネット注文した商品に間違いがありクレームを言おうとしたところ、後頭部の口が代わりに話し出して、その場を丸くおさめてしまう事が分かった。
しかし、この事実は主人公にとって問題があった。現在付き合っている彼女に、近々別れ話をしようと思っていたからだ。
結
開き直って彼女に電話で別れ話を切り出そうとすると、案の定『後頭部の口』が丸くおさめる様な話をしてしまい、それに対する彼女の反応が良かった為に主人公は別れ話について考え直そうとする。実は彼女も同じ『奇病』で、良かった反応とは全て『後頭部の口』の仕業だった。
総合的なポイント
先ずは『非現実』な世界から入った物語は、その中ではそれが『普通』である状況を作らなければなりません。そしていち早く、読者の方をそこに招待する訳ですね。
更に『ミスリード』の手法として、主人公の身に起こった出来事が、本来なら災いを起こしそうな物なのに、一旦何も起こらない状況を作っています。そして更に良いことに転じる場面もある。こうなると、読者の方は勿論これが『キー』である事は想定するでしょうが、今回の展開はその焦点を主人公に当てる為の『仕掛け』なのです。
何かの効果を『増幅』させる装置は『引き』にあるのです。
コラム/物語のきっかけ(前編)
物語を書くときの『きっかけ』。これは『発想法』のお話に少し似ていますが、少々内容が異なります。要するに、『何故この物語を書こうと思ったのか』と言う辺りのお話の方になる訳ですね。その詳しい内容については、次回のコラム/物語のきっかけ(後編)にてお話ししたいと思います。
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