ユーモアの構造(後編)
【CONTENTS】
作品例(1)/視点
作品例(視点)の全文はこちら↓↓↓
「あのー。神様視点って分かります?」
出版社の編集長は、少々困った表情で私に問いかけた。
「はあ、何となく」と私は答えたが、正直なところあまり自信が無かった。
この問いに至るまでに、やたらと専門用語を列挙していた編集長は、きっと私を説き伏せたいに違いない。
物語の冒頭で、主人公と編集長の関係性を示しています。
ユーモアを含みながら、編集長が主人公に抱いている感情がどのようなものかを表現しています。
『やたらと専門用語を列挙』
編集長は主人公に対し『苛立ち』があり、主人公もそれを感じとっています。それらの関係性を、この一文で表現しています。
「あまり理解できてないようだから言いますけど、神様視点ってのは、主人公が見たり聞いたりしてない第三者の視点から、その内面を描いたりする事で、要するに『神様』みたいに何でもお見通しの視点から物語を書くって言う意味ですよ」
「はあ……」
「貴方が持ち込んだ原稿の中身は、全体的にその傾向がありますね。私は少し読んだだけで、そういうのが全部わかるんですよ」
編集長は『小説の事なら何でもお見通し』の視点から言葉を放った。
小説内における言葉の繰り返し。これもユーモアの一つの形です。ただし、単に繰り返すのではなく、同じ言葉で別の意味を持たせた方がいいでしょう。
『何でもお見通しの視点』
【編集長】
小説の『視点』について、神様が見ているかの如く何でも、そして何処からでも見える状態を説明するため。
【主人公】
編集長の言葉を受けて、『あなたには何でも分かると言うのですか?』皮肉った意味での言葉で、これもある意味で伏線なのです。オチで主人公が誰だか分かった時、この言葉の意味はもっと強いものになりますよね。
kindle unlimitedで1日に1000頁以上読まれた人気の指南書です。
作品例(2)/鍋奉行
作品例(鍋奉行)の全文はこちら↓↓↓
「あなたって典型的な鍋奉行よね」
鍋の向こう側から、溜め息混じりに妻の声が聞こえた。俺が顔を上げると、こちらをじっと見たまま妙な角度で箸を止めている。
「肉が先だの野菜がどうだのって、会社の中でもそんな風にちゃんと段取り考えて、誰かに指示とか出したりしてるわけ?」
「いいや……。転職したての新人社員だよ。そんな事まだまだ出来る訳ないじゃないか」
●溜め息混じりに
夫に対する『うんざり』した気持ち
●妙な角度で箸を止めている
不満を言う事に集中している為、箸を持つ手から意識が遠のいている。
作品の冒頭から、夫婦の関係がそれほど良くないことを示しています。
ただ、こういった状況説明をする場合、それぞれの登場人物の性格的なものを表しながら、尚且つそこにユーモアを加える。そういった手法を使っています。
前編でも軽く触れましたが、小説内で状況説明をする場合、文章があまり硬くなりすぎると、読者の方を飽きさせてしまう場合があります。そういったことを避ける目的もここにはあります。
「四十五歳だよ」
俺は大事なトングをテーブルに対して真っ直ぐ揃えながら答えた。
ここのくだりはユーモアであり、主人公の性格も表しています。主人公は、年齢の割には少し幼い部分があり、なおかつ神経質な性格であると言うことを表しています。
そして最後に
小説内でのユーモアは、笑いを誘うのはベースの役割ですが、それ以上に別の役割を与えたり、文章のリズムや、読者の方が読む時の心理にまで作用させる事が可能です。
著名な作家の方々は、これらを実に自然な状態で作中に盛り込んでいます。既に読んだ事のある小説も、この様な視点で再読されると、新たな発見があるのではないかと思います。一度お試しを。
次回は、ショートショート『帰れない』の創作プロセス公開です。
↑↑↑ブログランキングに参加しています。面白かった方は応援お願いします。
↑↑↑読者登録はこちらからお願いします。
↑↑↑最新のランキングチェックはこちら!