コラム/余計な文章(後編)
『余計な文章』と書くと、表現があまり良くありませんが、要するに『省略出来る文章』と言う事になります。その中でも、ビギナーの方に最も多く見られるのが『会話文』ではないかと思いますので、その辺りについて解説したいと思います。
【CONTENTS】
二人のセリフの場合
先ずは基本的な二人の会話の場面です。特別な場合を除けば交互に会話する事によってキャラクターを区別する事が出来ます。
ショートショート『さじ加減』より
作品の全文はこちら↓↓↓
「何よ、これ。塩っ辛い!」
私の妻が言った。日曜日の昼の事だった。久々に私が作ったチャーハンを食べた妻は、塩が多いと言いだした。
「そうかな……」
私が言うと、
「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」
妻が更に追い討ちをかける。
「それは、そうだけど……」
その先、私は言葉が出なかった。
一見したところ、あまり問題のない文章の様に見えますが、実際の作品ではアンダーラインの部分を省略しています。以下が実際の作品での文章です。
「何よ、これ。塩っ辛い!」
日曜日の昼の事だった。久々に私が作ったチャーハンを食べた妻は、塩が多いと言いだした。
「そうかな……」
「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」
「それは、そうだけど……」
二人の会話文の場合、最初に二人が誰であるかを明確にしておけば、後は交互に言葉を交わすようにして、その途中でアクションがあった時、人の名前を動作とともに組み込む程度で十分に状況は伝わります。
例えば会話が交互でななく、同じ人物が二つに分かれたセリフを話さなければいけない時など、上記と同様でアクションに加えて誰が話したかを明確にすれば良いのです。
以下、実際は作品に無かった部分ですが、セリフを続けるシチュエーションを作ってみましょう。
「そうよ。だって、あなたインスタントコーヒー、ちゃんと作れないじゃない!」
「それは、そうだけど……」
答えに困った私はキッチンを見渡した。
「だからこれを百円ショップで買ったんじゃないか」
五本束ねられたプラスチック製の計量スプーンを引き出しから取り出し、それを妻に見せた。
二人以上のセリフの場合
次に、二人以上が登場する場合の例ですが、今回は同時に会話するのではなく、三人が順番に話してゆく場面です。これが三人の会話となると、少々複雑になります。
ショートショート『あなろぐ』より
作品の全文はこちら↓↓↓
工場の奥には後輩のカジワラが居た。怠慢で雑用は平気で先輩にやらせようとするヤツだ。カジワラが言った。
「ああ、カナコさん。一応、洗い物全部やっておきました。他のカナコさんの仕事もみんなで手分けして。だって急ぎの用だったんでしょう?」
カジワラの言葉にカナコが答える。
「へえ、やってくれたんだあ……」
工場長がカナコに近づき、口を開く。
「なあカナコ。何でもきっちり予定通りってのもいいけど、何かあった時には何て言うの、お前が嫌いな『あなろぐ』だっけ? それもいいんじゃない? あのヤマキ社長も伝言を入れ間違う事だってあるんだし」
「ま、まあそうね」
各セリフにセットで誰が話したかが書かれていますが、これでは文章がすっきりしません。実際の作品では、最後に登場した人物だけに絞って誰のセリフかを明確にしています。これは、この部分では三人目となる人物の登場によって、読者の方が混乱しない様にする為のものです。以下が実際の作品です。
工場の奥には後輩のカジワラが居た。怠慢で雑用は平気で先輩にやらせようとするヤツだ。
「ああ、カナコさん。一応、洗い物全部やっておきました。他のカナコさんの仕事もみんなで手分けして。だって急ぎの用だったんでしょう?」
「へえ、やってくれたんだあ……」
工場長がカナコに近づき、口を開く。
「なあカナコ。何でもきっちり予定通りってのもいいけど、何かあった時には何て言うの、お前が嫌いな『あなろぐ』だっけ? それもいいんじゃない? あのヤマキ社長も伝言を入れ間違う事だってあるんだし」
「ま、まあそうね」
既に出来上がった作品である為、 チェック前の文章は極端な感じになっていますが、これに似たような書き方をしてしまう場合が、あるのです。
省略の為の基本的な方法
❶セリフの直前に描写等を入れる
ダイワ製粉に着くと、主任が荷物を積んだ台車を押してやって来た。
「カナコさん、これですよ」
❷セリフの直後に描写等を入れる
「担当ですか? まあ、やれる人がやってお互い助け合うって形で……」
先代の息子である二代目社長の対応は、まさに『のれんに腕押し』だった。
❸キャラクター同士の口調を区別する
「どうしてこうなっちゃうのよ!」
「どうする? 粉さえありゃいくらでも作るけどよ」
「私が取りに行くわ! 二時間後に戻れば間に合うわよね!」
「二時間後って十時じゃねえか。それはちょっと……」
「さっき、粉さえあればって言ったじゃない!」
「わかったよ。絶対時間厳守だぞ! でも間に合うのか? 往復だけで二時間ぐらいかかるぜ。粉だって向こうが用意してなきゃ……」
「とにかく出発するわ!」
そして最後に
今回は『省略出来る文章』の解説をしましたが、特に書いてはいけないと言う訳ではありません。あくまでリズムに滞りがない様にとか、文字数を節約したい場合などに省略出来る部分を探せば良いと思います。
また、作品の流れ上や作者の意図によって、一般的には書かない時に『あえて書く』場青もあって、こちらは更に上級のテクニックになります。文章に『もたつき』を感じた時は、是非参考にしてください。
次回は、ショートショート『タイムカプセル』の創作プロセス公開です。
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